先日のブログで書いた「知日」の最初の記事。去年の9月に書いたものです。ずっとそのままになっていて、今回雑誌が出たらしいのですが、まだ手元には来てないです。依頼のメールを改めて見てみたら、3回の隔月の連載、とのことなんで、あと1回ありそうです。次はどの作品を選んでくるのかな?
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「蝶」正岡子規 著 デザイン、プリント、製本など山崎曜
2004年に東京製本倶楽部の企画展示のために作ったものです。和紙職人の団体とのコラボレーション企画で、二人の和紙職人、佐藤友泰さんと田村寛さんの紙を使いました。私を含めた各人のために3部を制作しました。3部は表紙の模様が少しずつ異なります。
私がいつも心掛けていることは、与えられた条件を最大限に楽しむことです。この場合、発注者がいない仕事ですし、紙そのものの魅力を最大限に生かすことがテーマとなりました。
まず、和本(線装、東アジアの古い本の一般的な形)のイメージで、と思いました。しかし、それでは当たり前なので工夫をこらしました。
本文に使用した紙は原料がミツマタで、透け感とツヤのある薄い紙でしたから、この透け具合を生かすことにしました。この紙の下に、墨で染めた薄い半紙を置き、薄い白い紙をちぎって挟むと、影絵の味わいのある地紋となり、ページをめくる時に微妙に影の具合がかわり、一枚の紙では出せない表情が生まれました。
一方、紙のサイズが530mm×180mmで縦目、という特殊な形です。半分に切って二つ折りにすると普通の縦長の本になりますが、逆目になってしまいますし、面白みがでません。そこで、まず四等分に切り離して、1ページずつ印刷することにし、横長の本に仕上げることにしました。本文印刷は熱転写タイプのプリンタALPS5500を使用しました。紙が薄くて紙詰まりしてしまうため、A4のコピー紙上に四辺を貼り、プリントしてからはがすという手間をかけ、プリントをしました。
こうしてできた本文の各2ページと墨染めの半紙を1セットとして小口側で細い糸で縫い合わせ、折り返して開くと、見た目は袋綴じのような状態になります。白い紙を即興的にちぎって挟んで貼って視覚的流れを作りました。糸が細いので小口の綴じ目はほとんど見えません。が、間に入っている墨染めの紙も小口で縫われているので、中でずれたり動いたりすることもなくしっかり止まっています。めくり心地もよく、小口を縫うという意外性もあり、気に入っています。大量生産の本では不可能なことですが、量産とは別の発想の本を作ることこそが、私のしたいことなので、満足しています。
扉と表紙には楮の紙を使い、裏面からそれぞれ白い顔料の絵の具と墨をしみこませるように塗って、滲み出た感じの風合いを作りました。また、綴じの部分を細い絹糸で刺繍的なデザインにしました。タイトルは金箔押しで入れています。
内容は、明治期に現在の日本語の元となる書き言葉の世界を作った正岡子規の小品です。
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