2022年4月22日|製本と教室|個別ページ| コメント(0)
日記の改装
先日、70年以上前のお父様の古い日記を修理してほしい、というご依頼を受けました。
バラバラで読めないので、きっちり残る形に直して、読めるようにしておきたいということだったと思います。
送られてきた物は帳簿製本でした。
こんなふうに背がはずれ、表紙は綴じ糸と綴じ緒でかろうじてついている、という状態でした。
それを、こういうふうに直しました。
ダークグリーンの山羊革と単色のマーブル紙に少し手を加えたもので製本しました。
以下、だいたいどんな工程で修理(というよりも改装)したかを紹介してみます。
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帳簿製本というスタイルの製本です。
罫線は、赤の二重線でしきられ、三段になっており、赤いスタンプで三年間の日付が入っています(第二次大戦中です。これは書き手ご本人の入れたものでしょうか)。
三年日記として売られていたものなのだろう、と想像しました。
2012年に帳簿専門の恩田製本所で帳簿製本を習う機会がありました。
今回こうして直せるのもそのおかげです。
その企画をしてくれた、田中栞さんと東京製本倶楽部にはあらためて感謝です。ほんとうにありがとうございました。
革装にというご希望でしたので、帳簿の定型のコーネル装で、革の面積を多めにした形にすることにしました。
中身の糸綴じはほぼ残ってましたが、糸は劣化してるので、綴じ直すことにして、糸を切って、折丁に分けます。
この見返しのぐるぐる、ペンで描いて模様を作り、印刷したものと思われます。手元にあるもので作った手作り感が、いい感じ。
直す時に使うマーブル紙に、このぐるぐるを取り入れることに決めました。
テープ状に切った製本クロスを張り、一折づつ糸で綴じつけていきます。
綴じが終わって、これから背を固めるところです。
この段階で、
本は回復期に入ったというか、再生しつつあるというか、
かなり嬉しい気持ちになります。
背を固め、はなぎれを貼り、和紙で背貼りをし、
帳簿製本に特有のバネ(写真、グレーの厚紙)と うかし(背に渡っている白い紙)を貼って、中身の出来上がりです。
角革を貼った分厚いボール紙の表紙を貼り付け、
紙管に手を加えて作った背の芯を うかし に貼って、取り付けたところです。
帳簿製本は机の上で全開して書き込むために作られています。
机で全開した時、がっちり安定するために、固い背の芯を使っています。
背の革を貼り、みきり(革の切れてるとこ)を斜めに削ぎます。
このあと、空いた六角形のところに、革がぼこっと出っぱらないように、紙を貼ります。(その紙の縁(へり)も削いで、革の削ぎのところに重なるようにします。)
平(ひら)のマーブル紙を貼りました。
茶色の単色マーブル紙は、太めの青ボールペンでぐるぐるを加えてから使いました。
表紙の裏に、しっかりした紙を一枚貼ります。白いのがそれです。
反りを防ぐのと、革のでこぼこを解消する役目です。埋め紙(うめがみ)といいます。
見返しを表紙裏に貼り、みきりに金線を箔押しして完成。
金線はルレットという大きなピザカッターみたいな道具を使います。
金を入れると、ぐっと見栄えがします。
表紙を開けたところ。平と同じ柄で 緑の単色マーブル紙を使いました。
めくると、元の見返し(遊び紙)も残してあります。
左側、新たな見返しの裏は、似た色の紙を裏打ちして、違和感のないようにしました。
見返しは、製本クロスでつなげて、糸綴じしています。これでかなり丈夫です。目立たないようにサインも入れました。
もう書き込むことはない本ですから、普通のハードカバーに仕立てる、ということも考えましたが、のどまで字が書かれているわけですから、やはり帳簿製本の形しかありえないと考えなおし、そうしました。
(普通のハードカバーの本は、のどまで完全には開きません。
読むためにはそれで充分なのと、その方が型崩れしにくいですから。)
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本との付き合い方で、私に特徴的だと思うことは
本を出版する側でなく、受け取る側に居る作り手だ、ということです。
量産された本が、誰かのところで個別のものに変わっていくのに手を貸す、のが役目。
作業の時は、全然そんなことは考えないけれど、出来上がったものを見ると、
あれ?何かが変わった、
と感じます。
長年使われたものが つくも神(がみ)になる、ということを思いだします。
更新がとても不活発になっている、このウェブサイト。徐々に手を入れていこうと思うようになりました。
コロナで、身動きがとても少ないまま、zoomで「本を読む」ことを続けてきました。
「本をなおす」ということをすると、「手」という、ことばを持たないものから、何かが入ってきて、自分の再構成が促される感じがします。
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